【講義】実践研究Ⅱ (2025年度)
Ⅰ はじめに
デジタルアーカイブは,さまざまな分野で必要とされる資料を記録・保存・発信・評価する重要なプロセスである.このデジタルアーカイブは,わが国の知識基盤社会を支えるものであり,デジタルアーカイブ学会でも,デジタルアーカイブ立国に向けて「デジタルアーカイブ基盤基本法(仮称)」などの法整備への政策提言を積極的に行っている.今後,知識基盤社会おいてデジタルアーカイブについて責任をもって実践できる専門職であるデジタルアーキビストが必要とされている.ここでは,デジタルアーキビストの学術的な基礎として,地域資源デジタルアーカイブに関する手法やデジタルアーカイブの課題を実践的に学ぶ.
Ⅱ 授業の目的・ねらい
・この授業は講座とスクーリングに分かれて学修する。スクーリングは、実践的にデジタルアーカイブし記録管理を体験することになる。
・事前課題と事後課題が設定されており,個別で学修する場合にも,集団で学修する場合においても学修を深めるために主体的に研究課題を考えることが重要である.
Ⅲ 授業の教育目標
本科目は講座とスクーリングにより構成されている。講座では、各地域の問題意識や課題を明確にし、デジタルアーカイブを計画する。また、実際にスクーリングでは研究計画を立て、調査をし、デジタルアーカイブする、その後記録したデータを管理し、公開するまでを学ぶ。
【事前課題】 各地域の問題意識や課題を明確にし、デジタルアーカイブを計画する
1.何を学ぶか
地域の関心領域における問題意識、課題などを取り上げ、明確化し、デジタルアーカイブの計画を立てる。明確化する過程で、資料を読み、地域に関する一定程度の知識を獲得しておく。
2.学習到達目標
① 阪神淡路大震災における問題意識や課題を明確化する。
② 地域における問題意識や課題をもとに「震災デジタルアーカイブ」を計画する。
(前期)【現地実践演習】 震災デジタルアーカイブ
1.何を学ぶか
・【事前課題】阪神淡路大震災の問題意識や課題の明確化し、震災デジタルアーカイブにふさわしい場所を選択し、計画をする。
・【現地実践演習】【事前課題】で計画した場所での震災デジタルアーカイブを実施する。
2.学習到達目標
震災デジタルアーカイブの手法を具体的に実施し、Webで公開する手法を学ぶ。
3.プログラム
授 業:「実践研究Ⅱ」(2単位)
日 程:令和7年 7月12日(土)~7月13日(日)
会 場:7月12日(土):阪神・淡路大震災記念 ー 人と防災未来センター(〒651-0073 神戸市中央区脇浜海岸通1丁目5-2 TEL(078)262-5068)
7月13日(日):神戸大学附属図書館ー震災文庫(〒657-8501 神戸市灘区六甲台町2-1 TEL(078)803-7342)
3.日 程
7月12日(土)
集合(12:30)
人と防災未来センター 西館1階 総合受付付近集合
各自で入場券(学生450円)を購入してください。
(学生証を忘れた場合は一般料金650円になります。)
阪神・淡路大震災記念 ー 人と防災未来センター(〒651-0073 神戸市中央区脇浜海岸通1丁目5-2 TEL(078)262-5068)
13:10~14:40
講 演:デジタルアーカイブと阪神・淡路大震災
講師:震災資料専門員 水谷嘉宏氏
講師:震災資料専門員 福嶋純之氏
内容概要
講演要旨:震災資料とデジタルアーカイブ
1. はじめに:阪神・淡路大震災30年事業と人と防災未来センター
講演は、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災から30年を迎える今年、兵庫県全体で推進されている**「阪神・淡路大震災30年事業」**に人と防災未来センターも参加していることから始まりました。この事業は「忘れない、伝える、生かす、備える、つなぐ」を基本コンセプトとし、県民や関係機関と連携して記念事業を展開しています。
人と防災未来センターは、阪神・淡路大震災の経験と教訓の継承、そして減災社会の実現を目的に設立されました。2002年に開館した西館では震災の被害・復旧・復興の過程や記憶の継承に関する展示を、2003年に開館した東館では自然災害全般の仕組みや避難行動体験に関する展示を行っています。展示以外にも、災害文化の形成、地域防災力の向上、防災政策の開発支援に関する調査研究など、多岐にわたる機能を担っています。その中で、講演者の福島様が所属する資料室は、資料の収集・保存という重要な機能を果たしています。
2. 震災資料の概要と資料室の活動
2.1 震災資料の定義と分類
資料室では、震災と復興に関する文書資料、映像資料、物資料などを「震災資料」と定義し、以下の2種類に大別して収集・保存しています。
一次資料: 阪神・淡路大震災当時の状況を物語る資料です。例えば、地震発生時刻で止まった時計、避難所で使われたポスター、被害の様子を撮影した写真やビデオなどがこれに当たります。これらの資料は西館での展示のほか、収蔵庫に保管され、博物館の企画展や地域の防災イベントへの貸し出しも行われています。
二次資料: 災害や防災に関する図書、雑誌、視聴覚資料、論文などを指します。阪神・淡路大震災だけでなく、東日本大震災や能登半島地震など、様々な災害に関する資料を収集しています。これらの資料は資料室内に開架されており、誰でも閲覧可能です。一部のDVDは一般への貸し出しも行っています。
2.2 震災資料の劣化と対策
震災の経験や記憶の継承が困難になっている現状として、当時の経験世代の減少や語り部の高齢化が挙げられますが、本講演では特に震災資料の劣化が取り上げられました。
震災資料には、震災による直接的なダメージが大きいものや、時間経過で劣化が進むものがあります。例えば、震災で焼けた硬貨は触ると崩れやすい状態であったり、救援物資の缶詰は中身が入ったまま保管されていると、内容物が漏れ出して錆が進行するケースがあります。資料室では、そうした劣化の進んだ資料について、中身の処分などの対策を講じています。
また、ユネスコが提唱する**「マグネティックテープの終焉」**問題も深刻です。2025年を目処に、長期保存に適さない磁気テープ自体の劣化や、再生機の生産終了により、VHSやカセットテープなどの映像・音声資料が閲覧できなくなる恐れがあります。
これらの資料劣化に対応するため、資料室では以下の活動を行っています。
震災資料の収集・保存活動: センターが所蔵する約19万点の震災資料のうち、約16万点は開館前に兵庫県や財団法人が直接調査して収集したものです。開館後は、資料室が収集事業を引き継ぎ、既存希望者からの連絡・訪問を基本として資料を収集しています。収集された資料は、温湿度管理や防虫作業などの対策を施しながら保存されています。
震災資料のデジタル化: 資料の全体が分かるように撮影したり、紙や写真資料はスキャナーを用いてJPEGデータやPDFデータとして取り込んでいます。映像・音声資料は動画ファイルや音声ファイルに変換しています。デジタル化された資料は後述のデジタルアーカイブでの公開や、二次利用の貸し出しに活用されています。
震災ビデオ変換ラボの開設: 2023年9月より、自宅で見られなくなった震災記録ビデオの視聴とデジタル化を無料で行える「震災ビデオ変換ラボ」を開設しています。利用条件は、ビデオテープが利用者またはその家族が震災当時の様子を撮影したホームビデオであること、および使用後のテープ原本または複製データをセンターに寄贈することです。VHS、8mmビデオ、MiniDVが再生可能で、現時点で18件の利用と39本の映像が寄贈されています。
3. 災害デジタルアーカイブの構築と特徴
東日本大震災を機に増加した災害デジタルアーカイブですが、その始まりは阪神・淡路大震災にあると考えられています。震災当時、携帯電話やインターネットが普及し始めた時期であり、専門知識を持たない一般の人々でもオンライン上でのコミュニケーションが容易になりました。センターでは当初から、収集した震災資料の検索・公開のためにデジタルアーカイブ化を検討し、資料室内の端末だけでなく、インターネット上でも閲覧できるシステムの構築を進めてきました。
現在、阪神・淡路大震災関連の災害デジタルアーカイブは多数存在します。講演では以下の例が挙げられました。
神戸市公開のデジタルアーカイブ: 地図上に建物の被災状況、専門家の研究記録、震災に関するモニュメントの分布などが表示されます。
朝日放送公開のデジタルアーカイブ: 朝日放送が取材した約38時間分の映像を時系列や場面で検索でき、取材場所も地図上で表示されます。
神戸大学附属図書館の震災文庫: 貯蔵している震災資料を検索できるだけでなく、包括連携協定を結んでいるサンテレビの取材映像も公開しています。
ここからは、人と防災未来センターが提供している主な3つのデジタルアーカイブが紹介されました。
3.1 情報検索システム
センターが所蔵する震災資料に関する情報を検索・閲覧できるシステムです。資料の詳細ページには、資料の名称、大きさ、寄贈者名、資料全体の写真が掲載されています。写真や映像の場合、さらにテープやマイクロフィルムといった資料形式や撮影場所も記載されています。
課題点: 震災資料のメタデータが不十分であることが挙げられます。本来廃棄されるような資料も多く、寄贈者へのヒアリングを通じて、震災体験談、資料収集経緯、日記や絵画の場合は作成理由などを付与することで、資料としての価値を高めることができます。センターは寄贈時にそうした情報も収集していますが、個人情報が含まれる場合や、寄贈者の意向で公開条件がある場合があり、どこまで公開すべきかの判断が難しい現状があります。
3.2 インターネットアーカイブ
アメリカの非営利団体が管理・運営する、ウェブページの収集保存活動やデジタルライブラリーの運営を行うサービスです。資料室では、寄贈された映像資料の中から震災の様子を撮影したホームビデオをアップロードし、撮影・記録時間、映像に映る場所などを記載しています。これらの映像は、非営利目的でクレジット表記をすることで誰でも利用可能です。情報検索システムにこの動画ページのURLを記載することで、アーカイブ同士の連携を図っています。
課題点: 公開のための編集作業や撮影場所の特定に時間がかかることが挙げられます。公開にあたっては、避難先の住所や緊急連絡先などの個人情報をモザイク処理で隠したり、デジタルアーカイブ学会が提唱する肖像権に関するガイドラインに準拠して、映像のカットや音声処理を行う必要があります。特に1時間、2時間といった長尺の映像の場合、確認箇所が多くなり、多大な時間を要します。現状では月に1点のアップロードが目安となっています。
撮影場所の特定については、映像に映る神社や道路の様子、撮影者の移動経路を分析し、当時の地図と照らし合わせて行われます。講演では、JR神戸線沿いの住宅街の映像を例に挙げ、ピンポイントでの特定がいかに難しいか、そして六甲山の稜線から大まかな角度を判断して絞り込んでいくといった難易度の高い作業についても触れられました。講演者自身が震災後に生まれた世代であり、地理に不案内な中での作業の困難さも語られました。
3.3 ウェブアーカイブ
災害対応研究会という団体が持っていたウェブページを保存したものです。この団体は災害発生後の災害について体系的な理解を確立することを目的に発足しましたが、2016年度の活動終了を機に、研究会の代表でセンター長も務める先生が2017年にこのウェブページをセンターに寄贈しました。ウェブページだけでなく、添付されている会報や記録のPDFや写真も同様に閲覧できます。
課題点: ウェブページの寄贈手続きそのものにあります。ソフトウェアの互換性、ページそのものの著作権、寄贈にかかる費用など、協議すべき内容が多いとのことです。今後センターとしては、ウェブページの寄贈受付は行わず、国立国会図書館のインターネット資料収集保存事業(WARP)や、前述のインターネットアーカイブの利用を案内する方向で検討を進めています。
4. 災害デジタルアーカイブの連携と今後の展望
人と防災未来センター資料室は、これまで紹介した様々な災害デジタルアーカイブを公開し、震災の記憶や経験の継承を図っています。また、**国立国会図書館東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)**との連携も行っており、センターから震災資料のメタデータを提供することで、ひなぎくから資料室の情報検索システムにアクセスできるようになっています。
災害デジタルアーカイブの役割は、大きく分けて以下の2つあります。
過去の歴史災害の発生当時から復旧・復興の様子を伝えること。
地震や災害からどう身を守るかを学ぶ教訓を知ること。
資料室が持つ災害デジタルアーカイブは、センター所蔵の震災資料にアクセスしやすくするだけでなく、震災の被害や復旧・復興の過程、そこから学ぶ教訓や防災意識をダイレクトに認知してもらう機会を創出すると考えられています。
今後の災害デジタルアーカイブは、防災に関する研究のほか、学校や地域防災組織と連携した防災教育、そして災害文化の普及に貢献できると展望されています。そして、これをより推進するためには、資料室自らがデジタルアーカイブの活用を積極的に実践し、その活用事例を示す必要があると考えています。
一例として、現在1階で開催中の資料室特別展**「駅・鉄道の被害と市民生活、そして復興」**の映像展示が紹介されました。これは寄贈された震災資料の映像の中から駅や鉄道に関連するものを編集して公開上映しているもので、使用されている映像は全てインターネットアーカイブから持ってきたものであり、インターネットアーカイブで全編を視聴することができます。この取り組みは、デジタルアーカイブの具体的な活用事例として非常に分かりやすいものでした。
写真
15:00~ 自由見学:人と防災未来センター
18:00 懇親会(自由参加)
7月13日(日)
集合(10:45)
10:45集合
神戸大学「アカデミア館3階ピロティ」集合
神戸大学附属図書館ー震災文庫(〒657-8501 神戸市灘区六甲台町2-1 TEL(078)803-7342)
注意事項
・地図上では最寄り駅から歩けそうな距離ですが、かなり急な坂道です。バス等の公共交通機関をご利用ください。
駅からのバスについては以下サイトを参考にしてください。集合場所は「神大正門前」からすぐになります。神戸市バスはICOCAやSUICAは使えますが、ayucaは使えません。
https://www.kobe-u.ac.jp/ja/campus-life/general/access/rokko/#station
・当日は日曜日なので、学内の食堂・購買は全て閉店です。大学近くに食事処もありません。
お昼は、持参いただくか、駅周辺まで出ることになります。
・震災文庫のある社会科学系図書館は登録有形文化財となっていますので、ぜひご覧ください。書庫以外は自由に見学できます。
ご希望があれば、講義後に15分程度の簡単なご案内をいたします。(当日申し出ていただければ結構です)
11:00~12:30 講 演:震災資料とデジタルアーカイブ
神戸大学附属図書館ー震災文庫
講師:神戸大学附属図書館 情報管理課 電子情報グループ 守本 瞬氏
講演要旨:神戸大学附属図書館震災文庫の挑戦
1. はじめに:震災文庫の現状と講演の趣旨
講演者は、阪神・淡路大震災発生当時は被災地から離れた場所にいたものの、実家が明石市であり、震災を身近に感じた経験から話を始めました。神戸大学の震災文庫は震災発生の1995年から始まりましたが、講演者が担当になってからの3年間で深く学び、今ではその内容を皆に説明できるようになったと語りました。本講演は、震災文庫のデジタルアーカイブに焦点を当て、特にメタデータの作成や課題について解説することを目的としています。
2. 震災文庫の概要
震災文庫は、神戸大学六甲台キャンパスの社会科学系図書館内にワンフロアを使い、平日11時から17時まで開館しています。以前はもっと長い時間開館していましたが、利用者の減少に伴い現在の時間帯になりました。資料は一点ものが多いため、原則として貸し出しは行っていません。外部の利用者も閲覧可能です。
3. 震災文庫の沿革と設立理念
震災文庫は、1995年4月に資料収集を開始しました。当時、「震災関連資料を網羅的に収集している場所があるか」という問い合わせが来たことを受け、図書館として資料を集めようという動きになったのが始まりです。当初は図書や雑誌を中心に収集していましたが、それだけでは震災の実態が分からないという認識から、チラシや張り紙などあらゆる資料を集める方針に転換しました。
この方針は「阪神・淡路大震災に関する文献資料の収集・提供について」という文書に明文化されていますが、図書館規定の中に「震災文庫を置く」といった法的な根拠は存在しないとのことです。しかし、震災から30年が経過し、今さら廃止されることはないだろうとの見解も示されました。
収集された資料のリストは、1995年7月6日に**「収集速報」**としてインターネットで公開されました。当時、神戸大学や図書館自身のウェブサイトがない状況にもかかわらず、いち早く収集速報を公開したことで、多くの利用者が来館するきっかけとなりました。そして、同年10月30日には震災文庫が正式に公開され、同時に震災文庫のホームページも開設されました。
その後の主な沿革は以下の通りです。
1998年度: 図書館システムが導入され、震災文庫の検索が可能になるとともに、電子化資料の公開も開始されました。
1998年9月: 電子化のための著作権処理を開始しました。来館しないと資料の中身が分からないという状況を改善するため、著作権者の許諾を得た資料の公開に乗り出しました。
1999年度: 著作権処理が完了した資料の本文をインターネットで公開開始しました。
2003年4月: 地図上でのGIS検索機能が実装されました。
2013年3月: 国立国会図書館東日本大震災アーカイブ「ひなぎく」との連携を開始し、現在に至ります。
4. 震災文庫の3つの方針
震災文庫が95年の開設当初から掲げている3つの方針は以下の通りです。
網羅的な収集: 図書や雑誌だけでなく、チラシや張り紙など、阪神・淡路大震災に関係していれば役に立つかどうかにかかわらず、あらゆる資料を収集しています。例えば、復興事業として始まった神戸マラソンやルミナリエに関する資料も継続的に集められています。
一般公開: 当時の国立大学は関係者以外は立ち入り禁止でしたが、「一般の人に公開しないと震災文庫は意味がない」という考えから、一般公開に踏み切りました。これは国立大学としては画期的な試みであり、全国の国立大学の中でも早期の一般公開だった可能性があります。現在では、国立大学が一般公開するのは当たり前となっています。
インターネットの活用: 個人のウェブサイトがほとんどなかった時代に、いち早くインターネットで収集速報を公開するなど、インターネットの活用に積極的でした。1998年からは電子化資料の公開も開始し、現代ではインターネット活用が当たり前になった今でも重要な方針として位置付けられています。
これら3つの方針の中でも、特に網羅的な収集は今も震災文庫の重要な特徴となっています。
5. 資料の分類と利用状況
震災文庫では、図書館の一般的な分類法(NDC)ではなく、当時の担当者が考案した独自の16分類を用いて資料を整理しています。これにより、資料の偏りを避け、震災に関連する多岐にわたる資料を適切に分類しています。現在も「行政」や「文芸」に関する資料は増え続けているとのことです。
資料数は約5万7000点で、そのうち本文公開されているのは約1万2000件です。新聞記事など、元々公開が難しい資料も多いため、公開数は限定的です。利用状況は5年ごとに増加する傾向があり、これは震災から5年、10年といった節目の年に利用者が増えるためと考えられます。
震災文庫は、以下の連携活動も行っています。
展示: 5年ごとに震災関連の展示を開催しています。昨年は、震災当時の写真と現在の場所を比較する企画展を実施しました。
授業連携: 防災関連の授業を行う教員が、高校生などを引率して震災文庫を訪れ、資料を学習に活用しています。
インターンシップ・職場体験: 図書館のインターンシップや兵庫県の中学生向けの職場体験「トライアルウィーク」の一環として、震災文庫の業務(資料整理、メタデータ作成など)を体験してもらっています。
6. 震災資料の特徴と保存・収集方法
震災文庫が扱う資料には、以下のような特徴があります。
現代の資料: 著作権が切れていない資料がほとんどであり、著作権処理が不可欠です。
公開を前提としていない資料: NPO法人が炊き出しを行った際の記録など、作成者が公開を想定していない資料も多数含まれています。
個人情報を含む資料: 写真に電話番号が写っていたり、映像に避難者の名前が映り込んでいたりするなど、個人情報を含むセンシティブな資料も扱っています。これらの資料は、通常の図書館資料とは異なる配慮が必要です。
著作者不明の資料: 張り紙や手書き資料など、著作者が不明な資料も多く存在します。
また、震災当時はインターネットが普及していなかったため、「紙」媒体の資料が圧倒的に多いのが特徴です。区役所からのお知らせや避難所の掲示なども紙で行われていたため、現在も多くの紙資料が残されています。現代の災害では、メールやSNS、デジタルサイネージでの情報発信が多く、かえって記録が残りにくい可能性も指摘されました。
資料の保存方法としては、主に以下の方法が取られています。
クリアケースでの保存: 紙資料は、破れや折れ、劣化を防ぐためにクリアケースに入れて保存されています。中身を保護し、両面から見ることができ、ラベルを貼れるというメリットがある一方、資料が厚く重くなるというデメリットもあります。資料の大きさがまちまちなため、ラベルにサイズを記載するなどの工夫が今後の課題とされています。
製本: 新聞記事などは製本して保存されています。かつてはクリアケースに1ページずつ入れていましたが、かさばるため製本に切り替えられました。製本することでスペース効率は上がりますが、原紙を直接めくるため破損のリスクがあるというデメリットもあります。ただし、現代の新聞は他の場所にも保存されているため、安心感があるとのことです。
エンキャプスレーション: 大型紙資料(地図など)は、ポリエステルフィルムで挟み、四隅を熱着して密閉する「エンキャプスレーション」という方法で保存されています。これにより紙がむき出しにならず、安全に取り扱うことができますが、重くなり、折り曲げられないため持ち運びには不便です。
デジタルデータへの変換: ビデオテープやカセットテープなどのアナログ媒体、フロッピーディスクやMOといった読み取り機が少なくなるデジタル媒体は、DVDなどへの変換を進めています。DVDもいずれ読めなくなる可能性はありますが、現状での最善策としています。元の媒体は資料として保存されていますが、スペースの問題から将来的に中身を処分することも検討されています。
資料の収集方法は多岐にわたります。
出版情報からの収集: 書籍は「Honya Club.com」などで、雑誌論文は「CiNii Articles」などを活用して収集しています。
記者発表資料のチェック: 神戸市や兵庫県のウェブサイトを毎日チェックし、関連資料を印刷して保存しています。
新聞記事の収集: 神戸新聞は毎日購読し切り抜きを保存、震災関連の特集が増える1月16日から18日には、朝日、読売、毎日、産経を加えた5紙を購読しています。
寄贈図書の受け入れ: 出版社などから送られてくる寄贈図書の中に震災関連の記載がないか確認し、あれば震災文庫に受け入れています。例えば、ホメロスの『イリアス』の前書きに震災の記載があったため受け入れた例も紹介されました。
広報誌・情報誌のチェック: 自治体の広報誌や地域の情報誌をチェックし、関連情報があれば入手しています。最近はウェブで広報誌を見ることができるため、今年の1月号は近隣自治体すべてをチェックしたとのことです。
街角での情報収集: 街のパンフレットコーナーや掲示板、病院の待合室などに貼られたチラシなど、日常生活の中でアンテナを張り巡らせて情報収集を行っています。
二次利用問い合わせからの情報: 震災資料の二次利用(映像使用など)の問い合わせがあった際に、著作権者から新たな情報(新著書など)を提供してもらうこともあります。
イベントへの参加: 関連イベントに出向いて配布資料を入手するなど、積極的に情報収集を行っています。
しかし、これらの方法をもってしても全ての情報を網羅することは難しく、後から「あのイベントの資料は入手できていない」といった補足漏れも生じるとのことです。
7. メタデータ作成の課題
震災文庫のメタデータは、1つの資料に対して1つのメタデータを作成し、図書館の図書データ表記法であるNDCやNCRに則って作成しています。しかし、開設当初は独自の階層構造(親子関係)を持つデータを作成していたため、現在はフラットなデータ構造に変換されています。このため、かつては容易だったシリーズ名での一括検索などが難しくなるという課題が生じています。
例えば、複数の新聞記事をまとめた製本資料は全体で1つの資料とみなされ、タイトルも「神戸新聞記事切り抜き32号」のように作成されます。個々の記事のタイトルは目次情報として入力されていますが、簡易検索では製本資料のタイトルしか表示されないため、利用者からするとどの記事がヒットしたのか分かりにくいという問題があります。また、目次情報に読み仮名を入力していないため、読み仮名での検索には対応していません。
写真資料についても同様の課題があります。寄贈された写真集は、全体で1つのメタデータとなり、個々の写真にはタイトルがないため、写真集全体をめくらないと中身が分かりません。電子化公開する際には、著作権者に写真1枚1枚にタイトルを付けてもらう必要があり、これが大きな負担となっています。何の写真か不明な場合や、適切なタイトルが付けられない場合は、公開を見送ることもあります。
メタデータ作成は非常に手間のかかる作業であり、講演者は「頑張って入力しても資料数が1しか増えない」と、その苦労も語りました。
8. まとめ
神戸大学附属図書館震災文庫は、阪神・淡路大震災の発生直後から、網羅的な資料収集、一般公開、インターネット活用という画期的な方針を掲げ、震災の記憶と教訓の継承に努めてきました。現代資料特有の著作権や個人情報、著作者不明といった課題を抱えながらも、クリアケースや製本、エンキャプスレーション、デジタル化といった様々な方法で資料の保存に取り組んでいます。また、メタデータ作成においては、検索の利便性と作業効率のバランスを取りながら、最適な方法を模索している現状が示されました。これらの活動を通じて、震災の経験を未来に伝え続ける重要な役割を担っていることが伝わる講演でした。
質疑応答
写真
資料
13:00~ 【現地実践演習】【事前課題】で計画した場所での震災デジタルアーカイブを実施する。
【持ち物】 ① 学生証
② デジタルカメラ(2日目の実践実習で使用)
③ 事前課題
【出欠について】6月30日(月)締切
出席・欠席いずれの場合も、6月30日(月)(必着)までに、
サイボウズ、FAX(058-212-3258)またはEmail(tsushin@gijodai.ac.jp)
いずれかの方法でご連絡ください。
【注意事項】① 現地集合・現地解散となります。
宿泊・交通等の手配は各自で行ってください。
② 旅費・宿泊費・入館料・レンタカー代・食事代等に
ついては自己負担となります。
③ 日程や内容の詳細については、随時サイボウズで
お知らせいたします。
④ 本科目の活動について写真による記録撮影を行い、
広報に活用させていただきます。
資料
3.出欠届
4.事前・事後課題解説
[事前課題] 震災アーカイブの関連サイト
詳しくは、下記サイトで指示いたします。
5.テキスト
地域資源デジタルアーカイブ(https://digitalarchiveproject.jp/)内の、
大規模公開オンライン講座(MOOC)/【講義】デジタルアーカイブ特講のテキスト
(後期)【現地実践演習】 沖縄文化遺産デジタルアーカイブ(未定)
1.何を学ぶか
地域の問題意識や課題の明確化し、課題解決にふさわしい場所を選択する。
【現地実践演習】については、スクーリングで行う。スクーリングでは、【事前課題】で計画した場所のデジタルアーカイブを実施する。
2.学習到達目標
デジタルアーカイブの手法を具体的に実施し、Webで公開する手法を学ぶ。
3.プログラム
授 業:「実践研究Ⅱ」(2単位)
日 程:令和7年 1月24日(土)~25日(日)